ストックとアウトプット

「アウトプットの問題」の項で、「洋書で仕入れた情報というのは、原語のままで脳内にストックされるため、アウトプットの際に日本語に置き換えるのに時間がかかる」という問題についてお話ししました。ここでは、その解決方法についてご説明しましょう。

重要なのは、自分がどの言語で主にアウトプットを行うのかを決めることです。ほとんどの方にとっては日本語だと思いますが、そうでない方もいらっしゃると思います。例えば、アメリカでアメリカの会社に勤めているとか、国際機関に勤めているとか、そういった事情によって、英語が主たるアウトプット言語になる場合もあります。また、フランスでフランスの研究機関に勤めているなら、フランス語が主なアウトプット言語になるでしょう。つまり、職業上最も必要とされるアウトプット言語をまず決めるということです。

私の友人の一人は、「英語でインプットを統一するのが効率的」という方針のもと、日本語版があるものでも敢えて英語版を読んでインプットする、ということを励行していましたが、私の見解によれば、この方法は、職業上のアウトプット言語が英語となる場合にのみ有効な方法です。仕事では日本語が主たるアウトプット言語になるにもかかわらず、主たるインプット言語を英語にしてしまうと、これは逆に非効率的になります。彼の場合、たまたま現在は国際機関で働いているので今のところはそれで問題ないと思いますが、将来的には日本に帰って仕事をすることになっているので、その後は遅かれ早かれ上記のインプット方針を改めるのではないかと予想しています。

実は、私自身も「ドイツ語でインプットを統一するのが効率的」という方針を励行していたこともあるのですが、それではどうもこのアウトプットの問題が生ずることに気付き、試行錯誤の末、以下のような方法論を開発しました。

主たるアウトプット言語を決めたら、読む本の内容はすべてその言語でまとめることにします。例えば、日本語が主たるアウトプット言語だったら、ドイツ語の洋書でもフランス語の洋書でも英語の洋書でも、そのまとめを書くときには日本語を使ってまとめるのです。この「まとめ」というのは、別にたいそうなものと考える必要はなくて、本の余白への書き込みとか、ちょっとした覚え書きとか、その程度でもいいです。あるいは、読んでいる最中に、「この内容を説明するとしたらどうやって日本語で説明するかなぁ」という想像を頭の中でするだけでもいいです。

重要なのは、日本語の語彙をつかって同じ内容をもう一度考えてみるということなのです。そうすると、どの語彙が日本語で表現する場合に欠けているのかという点が明確になります。それについて一度少し考えてみると、たいていは、どういう日本語の語彙を使ってその内容を表現するのが適切かということに思い至ります。もし考えるだけで思い浮かばない場合には、自分自身にその語彙が欠けているということですから、辞書や専門書やインターネットできちんと調べる必要があります。特に専門用語についてはそうする必要性が高いといえます。

このようにして、日本語で表現するのに必要な語彙も併せて脳内にストックしておけば、いざ口頭で表現しようという場合にも、スムーズに知識が披露できます。

英語にアウトプット言語を揃える場合にもまったく同じです。この場合、英語の本を読む場合に英語でまとめるのはもちろんのこと、日本語やドイツ語の本を読む場合にも英語でまとめます。そうすれば、英語で口頭で表現する場合に、適切な英語表現が浮かばずに困るということはありません。英語以外の言語でもまったく同じです。

なお、これは体験してみないと分からないと思いますが、基本的には、どの言語の本でも、書かれている言語で思考をまとめるのが本来は一番ラクです。例えば、ドイツ語の本を読んでいる場合には、頭の中の思考もドイツ語で展開されていますので、まとめをするときにも本来ならばドイツ語でまとめるのが一番ラクです。したがって、ついついドイツ語でまとめたくなるのですが、そこを、敢えてそれ以外のアウトプット言語(例えば日本語)でまとめ直す、というところに、この方法論の意味があります。

ところで、上記の方法論は、一つの言語をアウトプット言語にすれば十分である方々を念頭に置いたものですが、実際には、二つ以上の言語をアウトプット言語にする必要がある方もいらっしゃると思います。その場合には、そのうちでどの言語が最もアウトプットとして重要性が高いかを決めた上で、とりあえずその言語でまとめを行い、他の言語については「この言語でこの内容を説明するとしたらどうやって説明するだろうか」と頭の中で想像をめぐらせれば十分だと思います。もちろん、それで語彙が欠けていることに気付いたら、その言語の辞書なり専門書なりインターネットなりでその語彙を補充する必要があります。

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